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本当にあった中世の錬金術…それは神への挑戦か、はたまた化学か
2018.12.13
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「錬金術」と聞くと、何やら謎めいた魔法の世界を想像する。
実際には、錬金術師は何を行っていたのだろう。
錬金術は、中国や古代のヘレニズム文化、イスラムの文化に存在し、中世のヨーロッパで大流行する。哲学者のキアラ・クリスチャーニによると、錬金術はしかし現実的な問題として豊富な経済力が背景になければ成り立たない分野であった。
「錬金術」というイメージが持つ幻想的な世界も、実は世俗的な事象とは無縁ではなかったのが面白い。
錬金術の名のもとに、様々な分野の学問が発展する
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「錬金術」は、実験室の中である物質から別の物質を作り出すことを目的としている。卑金属から貴金属へと変質させることはもちろん、人体が不変に存在し続けることも、その目的には含まれている。
というわけで、錬金術の発展の過程から、化学、医学、薬学にいたる様々な分野が、その恩恵を被ることになった。それでは、薬や金属を扱う職人たちと、錬金術師とはどこが違うのであろうか。
理屈に裏付けられた技能「錬金術」
モノを作り出すという目的は同じでも、職人と錬金術師との間には明確な違いがあった。それが、哲学の有無だという。職人は、経験を積んで体で技術を会得する。職人独自の美学とか哲学はあるかもしれないが、それは特に明記されて誰かに伝えるというものではない。
錬金術にも、こうした側面はもちろん存在する。しかし、そこには「規律」とか「教理」が必要であった。「哲学」も「錬金術」も日本では一般的にあまりなじみがないからぴんと来ないのだが、ようは膨大な書籍を読破した「智」と、それを実践できる「技」によって何かを生み出す能力がある人が、錬金術師であった。
人間の技は自然を超えることができるのか
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錬金術が、イスラム世界からヨーロッパに伝えらえたのは12世紀といわれている。このまったく「新しい学問」は、またたくまに宮廷や修道院に普及する。
実験室や実験道具、ふんだんに使える貴石や薬草、そして実践を支える膨大な書物の購入には、大変な経済力を要した。そのため、知力と資力が集まる修道院は錬金術の研究を行うのに格好の場となったのである。
しかし、研究が盛んになる一方で、人間がこうしたものを作り出すことは神が創造した「自然」に反する傲慢なことではないかという反対意見も多くなる。
また、錬金術流行という潮流を利用し、偽物の金や貴石を販売する詐欺も横行しはじめた。こうした一連の動きから、1317年にときの法王ヨハネス22世は錬金術を行うことを禁止する。この法王によって、錬金術師の逮捕者まで出た。
しかし、法王による禁止令にもかかわらず、錬金術は一向に廃れなかった。錬金術に対する反対意見がある一方で、人間が血を駆使して新たなものを生み出すことは「神への助力」であるという説も根強かったのだ。金や銀を生み出す技術の開発が難しいことがわかると、錬金術はまた別の方向に向かいだすのである。
「メイド・イン・修道院」も錬金術の恩恵?
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中世後期のヨーロッパの錬金術の特徴、それが薬学への貢献である。
見たい知りたいと願う人々の好奇心は、不老不死の薬を生み出すという大義名分にかわるのだ。錬金術によって、「エキスの抽出」が可能になり、薬草の効能が著しくあがる。そしてこの技術は、14世紀に蒸留酒の誕生につながった。
現代の修道院でも、僧侶たちが生産する様々な物品が販売されている。観光客にも人気の、リキュールや化粧品は、こうした修道院での研究が生み出した「メイド・イン・修道院」というわけだ。
錬金術師たちの特権意識
知のエリートであることを自覚していた錬金術師たちにとって、自身が発明した技術が他に漏れることを非常に警戒していたという。とくに、別の職業への情報の漏洩に敏感であった。
その一方、錬金術師間の情報交換は盛んで、これを口実に錬金術師たちはよく旅をした。自身が秘匿している研究の結果を、同業者と語り合うことで確認する意味合いもあったようだ。「明確」で「確実」とされた秘密は、限られた弟子たちにだけ伝えられた。
こうした特権意識が生んだ秘密の世界から、幻想的なイメージが生まれたことは想像に難くない。ヨーロッパでも、「錬金術」と聞いて頭に思い浮かべるのは、仙人風の男が書物や道具に囲まれて魔術を実践している姿である。『ハリー・ポッター』も『日蝕』も、錬金術なしには生まれなかった文学作品なのだ。
- Sachiko Izawa
- *Discovery認定コントリビューター
- イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007
Text by Discovery編集部
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